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埼玉弁はある?|「〜べー」と秩父方言、地域の違い

秩父の山並みと平野、「行くべー」「おっぺす」「ひゃっこい」の吹き出しのイラスト。埼玉弁はある?の文字 埼玉の歴史・文化・雑学

結論:「埼玉弁」という一つのまとまった方言があるわけではありません。埼玉のことばは、群馬・東京多摩・神奈川などと同じ西関東の方言の仲間で、意志を「行くべー」、推量を「行くだんべー」と言う「ベー」がその代表です。

そのうえで県内は、東部・中部・西部(秩父)の大きく3つに分けて考えられ、とくに秩父は、語彙のうえでほかの地域との境界がはっきり見えるまとまりです。ただし東京に近い地域ほど共通語化が進み、伝統的な方言を話す人は年々少なくなっています。

埼玉のことばの地域の模式図。西部(秩父)は東秩父村を除く秩父郡で語彙の境界がはっきり、ものもらいをメカゴ。中部は比企・大里の平野部で塩味がうすいをアマイ。東部は春日部付近で南北に分かれ、東南部は埼玉特殊アクセント。県全体は西関東方言で〜べー・〜だんべー

「おっぺす」「けっぽる」「ひゃっこい」。埼玉で育った人が上京して初めて「それ方言だよ」と言われ、驚くことばの代表です。テレビでは「方言のない県」と言われがちな埼玉ですが、方言研究者の調査を読むと、県の中にいくつもの「ことばの境目」が見えてきます。

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埼玉弁ってあるの?

方言の研究では、埼玉県のことばは関東方言のうち西関東方言に分けられます。國學院大學の三井はるみ氏の論文(2023年)は、群馬・埼玉・東京多摩・神奈川の西関東では、推量を「ダンベー」、意志を「ベー」で表すと整理しています。「明日は雨だんべー(雨だろう)」「そろそろ帰るべー(帰ろう)」という言い方です。

ただ、同じ論文で昔話の資料を比べると、埼玉は神奈川とともに、方言の形より共通語の形の方が多く出てくる県でした。論文は理由までは述べていませんが、東京に近く人の行き来が多いことが関係しているのかもしれません(筆者の推測)。「埼玉には方言がない」というイメージとも重なります。

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県内でどう違う?東・中・西と秩父の境目

文教大学の亀田裕見氏は、2006〜2011年に県西部の22市町村64地点で、1935年ごろ生まれの地元の男性を中心に聞き取り調査を行いました。その報告によると、埼玉のことばは古くから東部・中部・西部の3つに分けて考えられ、さらに南北でも違いがあるとされています。県東部は春日部市付近を境に南北に分かれる、という指摘もあります。

西部(秩父)

  • 範囲:東秩父村を除く秩父郡(秩父市・横瀬町・皆野町・長瀞町・小鹿野町)。北西は神川町(旧神泉村)付近まで
  • 特徴:語彙のうえで、ほかの地域との境界線がかなりはっきり見える
  • 境界の理由:山に囲まれた地形がことばの境目をつくったとみられる

中部

  • 範囲:比企・大里郡の平野部など。東秩父村は行政上は秩父郡でも、ことばは中部
  • 特徴:谷沿いの道が平野部とつながり、東側の影響を強く受けている

東部

  • 範囲:県東部。春日部市付近を境に南北に分かれるとされる
  • 特徴:川口市東部・草加市・八潮市などの東南部は、ガ行の鼻にかかった発音(鼻濁音)が残り、「埼玉特殊アクセント」の地域として方言学で知られる

なお、本庄市・上里町・美里町など児玉郡の平野部は、秩父方言と北部の方言の両方の要素をもつ可能性があり、報告でも「さらに詳しい調査が必要」とされています。東秩父村が、秩父郡なのにことばは比企側に近いのは、谷沿いの道(県道11号)が峠越えの秩父側ではなく、比企・大里の平野部へとつながっていて、東側の影響を強く受けたためと報告は見ています。

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秩父と平野部、ことばはどう違う?

亀田氏の報告には、秩父側と平野部で言い方が分かれる言葉の実例が載っています。地図の上で、ちょうど山と平野の境目あたりに「ことばの境界線」が引かれるのが面白いところです。

意味山側(秩父・児玉郡)の言い方平野部の言い方
ものもらい(目の病気)メカゴ、メケゴ(秩父郡から児玉郡まで)メッパ
(塩味が)うすいミズッポイ(児玉郡。秩父側の語形は報告に記載なし)アマイ(大里郡まで)

稲妻も、平野部では「オヒカリ(サマ)」と言い、その言い方が児玉郡へは広がっていないと報告されています。塩味がうすいことを「アマイ」と言うのは、甘い・からいの「甘い」とは別の使い方です。埼玉の平野部の年配の人に「この汁、あまいね」と言われたら、砂糖ではなく塩が足りないという意味かもしれません。

「〜サレル」は県南のことば?

方言の文法で注目されているのが、受け身や可能を表す「〜サレル」です。たとえば「来られる」を「キサレル」と言います。以前は三郷市にだけ見られるとされていましたが、国立国語研究所の『方言文法全国地図』では蓮田市でも確認され、亀田氏の調査では蓮田市より西の県中南部、とくに入間郡でも見つかりました。秩父郡までは広がっていないことから、県南部の特徴である可能性が指摘されています。

埼玉の人がよく使う言葉は?

研究とは別に、埼玉出身の人の「これ方言だったの?」として、旅行メディアなどでよく挙がる言葉があります。地域や世代によって使う・使わないの差が大きいので、「聞いたことがあるか」を試すつもりで見てください。

おっぺす押す(「ドアをおっぺす」)
けっぽる蹴る(「ボールをけっぽる」)
ひゃっこい冷たい(「この水ひゃっこい」)
あるってく歩いていく(「駅まであるってく」)
キサレル着られる(県中南部。作例:「この服はまだキサレル」)
〜べー〜しよう(「早く行くべー」)
〜だんべー〜だろう(「明日は晴れだんべー」)

どれも埼玉だけの言葉というより、関東の昔ながらの言い方の仲間です。「埼玉弁」と呼ぶより、関東のことばが、地域ごとに少しずつ違う形で残っていると考えるのが実際に近いでしょう。

埼玉の方言はなくなる?

現状:亀田氏の報告は、東京に近い地域や都市部で共通語化が進み、越谷市の調査では2012年の時点で50歳代から伝統的な方言が急速に失われつつあるとしています。いまの10代・20代が「〜べー」を使う場面は、多くの地域でかなり限られます。

一方で、「おっぺす」のように、家の中や地元の友だちとの会話で今も生きている言葉もあります。おじいさん・おばあさんの話す秩父のことばや、草加・八潮のアクセントは、記録に残すなら今が最後の機会かもしれません。

よくある質問

Q. 埼玉と群馬の方言は似ている?
似ています。どちらも西関東方言で、「ベー」「ダンベー」を使う点は共通です。

Q. 「ださいたま」と方言は関係ある?
直接の関係はありません。「ださいたま」は1980年代にタモリさんが広めたとされる呼び名です。経緯は「ださいたま」は誰が言い出した?埼玉ディスの歴史で紹介しています。

Q. 秩父のことばを聞ける場所は?
地元のお祭りや、農産物直売所、昔からの商店などで年配の方と話すと耳にすることがあります。秩父の暮らしと歴史は秩父夜祭はなぜ12月?や秩父事件とは?でも紹介しています。

あわせて読みたい

参考:亀田裕見「埼玉県西部地域における伝統的方言の分布調査の経過報告―「秩父方言」の広がりと境界―」(文教大学、国立国語研究所「首都圏言語地図」関連資料)、三井はるみ「昔話資料に現れた方言特徴の検討─関東方言の「ベー」を例として─」『國學院雑誌』第124巻第9号(2023年)、『埼玉県東南部方言の記述的研究』(くろしお出版)、Tripa「埼玉県出身者なら共感する!埼玉県って実はこんなところです」

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