最も閲覧数が多い人気コンテンツ「アクセスランキング」

「埼」の字はなぜ常用漢字じゃなかった?|2010年まで表外字だった県名

大きな埼の字と、2010年に常用漢字に加わった茨・栃・岡・阪・熊・媛の字を並べた図 歴史・文化・雑学

3行でわかる「埼」の字

  • 「埼」は2010年11月30日の常用漢字表の改定まで、常用漢字に入っていない「表外字」だった
  • 常用漢字表は本来、固有名詞を対象にしない。2010年の改定で、例外として都道府県名に使う漢字を入れる方針になり、「埼」「茨」「栃」などが加わった
  • 小学校で「埼」を習うようになったのは、さらに後の2020年度から。いまは4年生で都道府県名の漢字として学ぶ

「埼」の字が長く常用漢字でなかったのは、常用漢字表がもともと地名や人名などの固有名詞を対象にしない表だったからです。「埼」は「埼玉」以外の言葉ではほとんど使われないため、表に入っていませんでした。2010年(平成22年)の改定で、都道府県名に使う漢字は例外として採用されることになり、ようやく「埼」も常用漢字になりました。

毎日のように目にする「埼玉」の「埼」。ところがこの字は、2010年まで国の目安となる漢字表に入っていない、いわば「表の外」の漢字でした。小学校で習うようになったのも、ほんの数年前のことです。この記事では、「埼」の字がたどってきた意外な歴史と、県名「さいたま」の由来を、文化庁や文部科学省、埼玉県の資料をもとに紹介します。

1946年の当用漢字表、1981年の常用漢字表には入らず、2010年に常用漢字に加わり、2020年度から小学4年で習うまでの年表図
スポンサーリンク

「埼」は本当に常用漢字じゃなかった?

はい、2010年までは常用漢字ではありませんでした。常用漢字表は、法令や新聞、雑誌など一般の社会生活で漢字を使うときの「目安」として、国が定めている漢字の表です。1981年(昭和56年)に告示された常用漢字表には1,945字が載っていましたが、そこに「埼」は入っていませんでした。

1981年の常用漢字表は、戦後の1946年(昭和21年)に公布された当用漢字表(1,850字)に95字を加えてできた表です。当用漢字表にも「埼」は入っていませんでした。つまり「埼」は、戦後60年以上にわたって、国の漢字表の外に置かれていたことになります。県の名前に使われ、約729万人(2026年9月1日現在の県の推計人口)が暮らす県の住所に毎日書かれている字が、国の漢字表には載っていなかったのです。

スポンサーリンク

なぜ入っていなかったの?

理由は、常用漢字表がもともと固有名詞を対象にしていなかったからです。2010年に告示された現在の常用漢字表の前書きにも、「この表は,都道府県名に用いる漢字及びそれに準じる漢字を除き,固有名詞を対象とするものではない。」と書かれています。裏を返せば、それまでの表は地名や人名を基準に字を選んでいなかったということです。

「埼」は、一般の言葉ではほとんど使われない字です。コトバンクに収録された辞書によると、「埼」には「みさき(岬)」や「山の端」といった意味があります。ただ、同じ意味では「崎」の字が広く使われているため、「埼」を使う言葉は「埼玉」以外にほとんど見当たりません。日常の言葉に使わない字は表に入れない、という考え方からすれば、「埼」が外れていたのは当然のことでした。

灯台の名前では「埼」が現役:「埼」が使われる数少ない場所が、灯台の名前です。千葉県銚子市の「犬吠埼灯台(いぬぼうさきとうだい)」や、静岡県の「御前埼灯台」がその例です。御前埼灯台のある市の名前は「御前崎市」と「崎」の字なのに、海上保安庁が使う灯台の名前は「御前埼」。同じ場所でも、使う字が分かれているのです。

スポンサーリンク

2010年に何が変わった?

大きな転機は、2010年(平成22年)11月30日の常用漢字表の改定です。文化庁によると、2005年3月に文部科学大臣が文化審議会に諮問し、2010年6月7日の答申を経て、11月30日に内閣告示として新しい常用漢字表が示されました。196字を加え、5字を削って、常用漢字は2,136字になりました。

このとき採用されたのが、「都道府県名に用いる漢字は例外として常用漢字に入れる」という考え方です。文化庁は、常用漢字表は固有名詞を対象としないものの、例外として都道府県名に用いられる漢字と、それに準じる漢字が採用されたと説明しています。文化審議会の答申は、都道府県名が固有名詞の中でも特に公共性が高いことを理由に挙げています。

こうして「埼」は、「茨」「栃」「岡」「阪」「熊」「媛」などとともに、常用漢字の仲間入りを果たしました。文化庁の資料では、「埼」の代表的な読みは「さい」とされています。

固有名詞を対象にしなかった常用漢字表が、2010年に都道府県名の字を例外として採用したことを比べた図

小学校で習うようになったのはいつ?

常用漢字になっても、すぐに小学校で習うようになったわけではありません。小学校で学ぶ漢字は「学年別漢字配当表」で決められていて、そこに「埼」が加わったのは、2017年(平成29年)3月に公示された学習指導要領からです。この学習指導要領は2020年度から小学校で全面実施されました。

文部科学省によると、このとき都道府県名に使う漢字20字が新たに配当表に加わりました。「埼」のほか、茨・媛・岡・潟・岐・熊・香・佐・崎・滋・鹿・縄・井・沖・栃・奈・梨・阪・阜です。これらはすべて小学4年生で習う字になり、5年生から移した賀・群・徳・富、6年生から移した城と合わせて、4年生で都道府県名の漢字25字を学ぶようになりました。文部科学省は、児童の日常生活や将来の社会生活、国語科以外の教科の学習での必要性を踏まえたと説明しています。

漢字検定でも扱いが変わりました。旺文社の資料によると、「埼」の配当級は2019年度まで2級でしたが、2020年度からは小学4年生相当の7級になっています。

そもそも「さいたま」の由来は?

県名の「埼玉」は、古代の郡の名前「埼玉郡」にさかのぼります。日本大百科全書によると、万葉集では「サキタマ」、平安時代の辞書『和名抄』では「サイタマ」と読まれていました。いまも行田市には「埼玉(さきたま)」という地名が残り、埼玉県の公式サイトは、行田市埼玉の埼玉古墳群を「県名発祥の地」と紹介しています。

行田市の前玉(さきたま)神社も、行田市観光協会が「埼玉県名発祥の神社」と紹介している古社です。前玉神社には、万葉集の「小埼沼」と「埼玉の津」の2首を刻んだ、元禄10年(1697年)の石燈籠2基が残っています(行田市指定文化財)。

「さきたま」という言葉の意味については、いくつかの説があります。「幸魂(さきみたま)」が変化したという本居宣長の説や、「タマ」を水辺や多摩郡とし、「サキ」をその前方とする説などですが、辞典では語源は「未詳」とされています。

万葉集のさきたま、和名抄のさいたま、県名発祥の地である行田市埼玉の流れを示した図

万葉集の時代から1,200年以上使われてきた「さきたま」の名前と、その名を書き表す「埼」の字。県の名前として毎日使われながら、国の漢字表では長く「表の外」に置かれていたという事実は、意外に知られていません。次に「埼玉」と書くとき、この字のたどった道のりを少し思い出してみてください(ひらがなの市名が生まれた経緯はさいたま市はなぜ「ひらがな」?で紹介しています)。

参考資料

あわせて読みたい埼玉の歴史コラム

歴史・文化・雑学の記事をもっと見る

タイトルとURLをコピーしました