3行でわかる「しんちゃん」と春日部
- 舞台が春日部なのは、作者の臼井儀人さんが春日部で育ち、漫画家になってからも暮らした町だったから。デビュー作の舞台も春日部だった
- 作中の「サトーココノカドー」のモデルはイトーヨーカドー春日部店。店は2024年11月に閉店したが、作品の中では「まだまだ営業中」
- 春日部市は2004年に野原一家を特別住民として登録。いまは「まちの案内人」として、駅の発車メロディやマンホールにも登場している
『クレヨンしんちゃん』の舞台が埼玉県春日部市なのは、作者の臼井儀人さんが春日部で育ち、漫画家になってからもこの町で暮らしていたからだと言われています。作品に出てくるスーパーや電車には、実在の春日部の風景が重ねられています。
「埼玉県春日部市」という地名を全国に、そして世界に広めた作品といえば、真っ先に『クレヨンしんちゃん』の名前が挙がるでしょう。この記事では、作者と春日部の関係、作品のモデルになった場所、そして町としんちゃんが二人三脚で歩んできた30年あまりを、春日部市の資料や報道をもとにたどります。

なぜ「しんちゃん」の舞台は春日部なの?
作者の臼井儀人さんは静岡県で生まれ、埼玉県春日部市で育ちました。会社勤めを経て漫画家になってからも、春日部に住んでいたことが報じられています。1990年には、双葉社の『漫画アクション』で『クレヨンしんちゃん』の連載を始めました。
春日部が舞台になったのは臼井さんの作品だけではありません。デビュー作『だらくやストア物語』の舞台も、「だらくやストア北春日部店」でした。自分がよく知る町を描く、というのが臼井さんの作風だったことがうかがえます。
ただし、臼井さん本人が「なぜ春日部を舞台にしたのか」をはっきり語った記録は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。太田出版の記事も、春日部で働き、漫画家になってからも住んでいたことが理由だと「言われています」と伝聞の形で紹介しています。同じ記事では、双葉社の初代担当編集者が、野原家が核家族として描かれたのは臼井家が核家族だったからで、作者の子育ての経験も反映されていると振り返っています。春日部の町と、そこで営まれていた作者自身の家族の暮らしが、作品の土台になっているのです。
作品の中にも、春日部を選んだ理由が出てきます。原作45巻の物件探しのエピソードでは、ひろしとみさえが春日部に家を持った理由を「この町、妙に懐かしいような感じでいいな」と語る場面があります。作者の言葉ではありませんが、春日部という町への作者のまなざしが感じられるセリフです。
作中に出てくる春日部のモデルは?
作品の中で最もよく知られたモデルが、野原一家がよく買い物に行くスーパー「サトーココノカドー」です。このモデルはイトーヨーカドー春日部店で、原作の公式サイトにも、同店の閉店に寄せた「臼井儀人&UYスタジオ」のコメントが掲載されています。
イトーヨーカドー春日部店は1972年に開業し、1996年に駅西口の店舗へ移転しました。2018年には、屋上の看板が作中と同じ「サトーココノカドー」に掛け替えられ、ファンの間で話題になります。しかし2024年11月24日、旧店舗からの52年の歴史に幕を下ろしました。公式サイトのコメントは「サトーココノカドーは作品の中で、まだまだ営業中です。」と結ばれています。
一方、しんのすけが通う「ふたば幼稚園」については、特定の園がモデルだと示す資料は見つかりませんでした。作品の中の春日部は、実在の町並みと作者の想像が混ざり合った町だと考えるのがよさそうです。

春日部市としんちゃんはどんな関係?
作品が人気を集めると、春日部市もしんちゃんを町の顔として迎えます。春日部市によると、平成16年(2004年)、旧春日部市の市制施行50周年を記念して、野原一家を「特別住民」として登録しました。平成21年度からは「子育て応援キャラクター」、平成22年度からは「まちの案内人」として、市のさまざまな場面で活躍しています。
平成22年(2010年)には、市の合併5周年を記念して、野原一家の「特別住民票」を限定1万枚、1枚300円で発行しました。クリアファイル付きのこの住民票は、平成24年6月までに完売しています。
町にはしんちゃんがあふれています。2018年10月1日の「春日部市の日」から順次、東武鉄道の春日部駅の発車メロディに、アニメの主題歌「オラはにんきもの」のアレンジが使われています。市のコミュニティバス「春バス」には平成28年(2016年)11月から3台のラッピング車両が走り、令和6年(2024年)1月からは、しんのすけの声の車内アナウンスも流れるようになりました。新しい市役所の本庁舎にもモニュメントが置かれています。
2026年7月5日には、しんちゃんと野原一家を描いたデザインマンホールが、春日部駅周辺の5カ所に設置されて披露されました。春日部のシンボル・藤の花と組み合わせた図柄で、しんちゃんのデザインマンホールとしては「世界初」と紹介されています。
「くまモンと家族都市」は埼玉県の協定:しんちゃんとくまモンが一緒に登場するニュースを見たことがある人もいるかもしれません。これは2022年7月20日に、埼玉県・秋田県・熊本県と双葉社が結んだ「クレヨンしんちゃん家族都市協定」によるものです。野原家が暮らす埼玉、ひろしの出身地の秋田、みさえの出身地の熊本の3県を結んだ協定で、春日部市単独の協定ではありません。協定でつくられたしんちゃんの像は、春日部市の龍Q館で展示されています。
作者が亡くなったあと、作品はどうなった?
臼井儀人さんは2009年9月、51歳で亡くなりました。作品の行方を心配する声が多く上がるなか、翌2010年8月に発売された『月刊まんがタウン』9月号から、臼井さんのアシスタントだったスタッフによって『新クレヨンしんちゃん』の連載が始まります。作者名は「臼井儀人&UYスタジオ」。作者が生み出した春日部の野原一家は、いまも描き続けられています。
1992年4月13日にテレビ朝日で始まったアニメも、30年以上にわたって放送が続いています。作品の時間が流れ続ける限り、春日部もまた「しんちゃんの町」であり続けるでしょう。

春日部でしんちゃんに会える場所は?
しんちゃんの町を歩くなら、まずは春日部駅で発車メロディに耳を傾けてみてください。駅の周辺では、デザインマンホールを探しながら歩くのも楽しみ方の一つです。春日部第1児童センター「エンゼル・ドーム」には7体のモニュメントがあり、市役所の本庁舎でもしんちゃんが迎えてくれます。郷土資料館ではしんちゃんの来館記念スタンプも押せます。埼玉県が家族都市協定でつくったしんちゃんの像は、龍Q館で見ることができます。
サトーココノカドーの看板が掲げられていたイトーヨーカドーの跡地の使い道は、閉店を伝えた報道では示されていませんでした。作品の中では「まだまだ営業中」の店が、現実の町でどんな姿に変わるのか。それもまた、しんちゃんの町・春日部のこれからの物語です。
参考資料
- クレヨンしんちゃん(春日部市)
- サトーココノカドー(イトーヨーカドー春日部店)閉店に寄せて(クレヨンしんちゃん公式サイト)
- クレヨンしんちゃんと春日部(太田出版 ケトルニュース)
- 臼井儀人の作品(ホンシェルジュ)
- クレヨンしんちゃん(allcinema)
- イトーヨーカドー春日部店の閉店(乗りものニュース)
- 春日部駅の発車メロディ(乗りものニュース)
- クレヨンしんちゃん家族都市協定(埼玉県報道発表資料)
- 家族都市協定のしんちゃん像の展示(埼玉県)
- しんちゃんのデザインマンホール(熊本日日新聞)
- 世界初のしんちゃんデザインマンホール(宣伝会議 AdverTimes)
- 春日部市公式サイト(人口)
- 『新クレヨンしんちゃん』の連載開始(GIGAZINE)
- 臼井儀人さんについての報道(デイリースポーツ)


