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首都圏外郭放水路はなぜ造られた?|地下神殿と見学のコツ

地下神殿の柱が並ぶ様子を図形で描いたイラスト 歴史・文化・雑学

3行でわかる首都圏外郭放水路

  • 大河川に囲まれた「お皿のような」低平地で、浸水をくり返した中川・綾瀬川流域を守るために造られた
  • 1993年3月に工事が始まり、2002年6月に一部で稼働、2006年6月に完成。地下50mを約6.3km流れる地下の川
  • 「地下神殿」は調圧水槽のこと。見学は春日部市の龍Q館が受付で、地下神殿コースは1,200円・完全予約制

首都圏外郭放水路は、雨水がたまりやすく、昭和から平成にかけて何万戸もの浸水被害を受けてきた中川・綾瀬川流域を守るために、国が春日部市の国道16号の地下に造った巨大な放水路です。あふれそうな川の水を地下へ取り込み、トンネルで運んで、最後は大きな江戸川へ流します。

この記事では、なぜこの地域が水に弱いのか、どんな水害があって放水路ができたのか、規模と効果、「地下神殿」と呼ばれる理由、そして2026年10月時点の見学会の料金と予約のコツまでを、国土交通省 江戸川河川事務所や見学会公式サイトの情報をもとにまとめます。

中川・綾瀬川流域の主な水害の浸水戸数を比べた棒グラフ
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なぜ中川・綾瀬川流域は水があふれやすいの?

理由は地形にあります。国土交通省 関東地方整備局の資料は、中川・綾瀬川流域を「利根川・江戸川・荒川といった大河川に囲まれた低平地流域」と説明し、「お皿のような地形をしているため、降った雨がたまりやすい地域」だとしています。

地図で見ると、春日部や越谷、草加のあたりは西を荒川、東を江戸川、北を利根川に囲まれ、その内側に低い土地が広がっています。事務所の説明では、かつて利根川や荒川が洪水のたびに流路を変えてきた土地で、川の勾配がゆるく水が流れにくいため、大雨のあとも水位がすぐには下がらないとされています。

そこへ急激な都市化が重なりました。国土交通省のインタビューでも、開発によって土地がもっていた遊水・保水の機能が失われたと説明されています。雨を一時的にためていた田畑が宅地に変われば、水の行き場はなくなります。河川整備や下水道整備が追いつかず、浸水被害が繰り返されたと事務所は説明しています。

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どんな水害があって、放水路はいつ造られたの?

国土交通省の「日本の川」によると、中川・綾瀬川では大きな浸水被害がたびたび起きています。1958年(昭和33年)の狩野川台風では浸水戸数41,544戸、1982年(昭和57年)9月の台風18号では36,425戸、1986年(昭和61年)8月の台風10号では22,962戸、1991年(平成3年)9月の台風18号では31,431戸が浸水しました。1991年の水害では春日部駅前も水につかり、その写真が国の資料に残っています。別の国の資料では、1980年代の10年間だけで浸水被害が8万戸を超えたとしています。

こうした状況を受けて、抜本的な対策として計画されたのが首都圏外郭放水路です。国土交通省の職員インタビューによると、1991年4月に公布された「大都市法」で、治水事業と住宅宅地の供給を一体で進めることが重要だとして、首都圏外郭放水路が主要プロジェクトに位置づけられました。

工事期間は1993年(平成5年)3月から2006年(平成18年)6月までの約13年です。全体の完成を待たず、第3立坑から排水機場までの3.3kmが先にできあがり、2002年(平成14年)6月から暫定的に稼働を始めました。

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どれくらい大きいの?地下50mの仕組みは?

放水路は、川の水を取り込む「立坑」、水を運ぶ「トンネル」、水の勢いを弱める「調圧水槽」、江戸川へ排水する「排水機場」の4つでできています。流れの順にたどると、仕組みがよくわかります。

立坑、トンネル、調圧水槽、排水機場、江戸川へと続く放水路のしくみ図

まず、中川、倉松川、大落古利根川、18号水路、幸松川があふれそうになると、その水の一部が立坑へ流れ込みます。立坑は全部で5本あり、それぞれ深さ約70m、内径約30m。地下に掘られた巨大な円筒形の縦穴です。

立坑どうしをつなぐトンネルは、春日部市上金崎から小渕まで国道16号の地下約50mを通り、延長約6.3km、内径約10mあります。埼玉県のページでは「延長6.3kmの地下の1級河川」と表現しています。つまり、地上の道路の真下にもう1本、川が流れているわけです。

トンネルの終点にあるのが調圧水槽で、地下22mに位置し、長さ177m、幅78m、高さ18mの空間です。ここで水の勢いを落とし、隣の庄和排水機場のポンプで江戸川へくみ上げます。ポンプは1秒間に50立方メートルを排水できるものが4台あり、4台フル稼働で毎秒200立方メートル。江戸川河川事務所は、小学校の25mプール1杯分を1秒で排水できる能力だと説明しています。動力は航空機用ガスタービンを改造したもので、出力は14,000馬力です。

59本の柱は「重し」でもある:調圧水槽の柱は1本が奥行7m、幅2m、高さ18m、重さ約500トン。地下水位が高い場所にあるため、水槽が地下水に押されて浮き上がらないよう、天井の土砂や柱のコンクリートの重さで押さえています。

本当に役に立っているの?稼働回数と効果は?

効果を示す数字は、資料ごとに時点が違うので、時点つきで紹介します。

国土交通省の「インフラのストック効果」の資料では、2002年6月の部分通水から2011年(平成23年)12月末までに69回の洪水調節を行い、累計の調節量は1億1,233万立方メートルでした。2008年(平成20年)8月の集中豪雨では、放水路がなかった場合のシミュレーションと比べ、浸水戸数が1,143戸、浸水面積が4.54平方キロメートル減ったと試算されています。同じ資料の費用便益比は3.2です。

その後も稼働は続き、江戸川河川事務所の広報紙「彩龍の川だより」第63号では、2019年度は7回の洪水流入があり「通算で121回」になったとしています。2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)では、東京ドーム約10個分にあたる1,218万立方メートルを調節しました。

さらに国土交通省の職員インタビュー(所属は2025年12月の取材時点)では、これまでに中川流域の洪水を150回地下放水路に取り込み、そのうち81回は排水機場を稼働させて江戸川へ排水したと紹介されています。全部の回で排水機場が動くわけではなく、地下にためるだけで済む雨も多いことがわかります。

別の国の資料では、1980年代に10年間で8万戸を超えていた浸水被害が、近年は10分の1以下になったとしています。同じ資料には綾瀬川放水路や三郷放水路の整備も並んでいるので、これらの対策を積み重ねた結果と考えられます。2015年の関東・東北豪雨でも、首都圏外郭放水路は綾瀬川放水路、三郷放水路とともに稼働しました。

69回・1,218万立方メートル・150回など放水路の効果を時点つきで示した図

なぜ「地下神殿」と呼ばれるの?

「地下神殿」は、施設全体ではなく調圧水槽のことです。薄暗い地下空間に高さ18mの柱が59本並ぶ姿は、確かに神殿の列柱を思わせます。江戸川河川事務所も、内部の雰囲気から「地下神殿」とも呼ばれていると紹介しています。国土交通省のインタビューでは、調圧水槽が「シンボリックで珍しい施設」だったことから、いつしか地下神殿と呼ばれるようになったと語られています。誰がいつ名付けたかは公式資料では確認できませんでした。

その非日常的な景色から撮影の依頼も多く、見学会の公式サイトにはロケ・イベント撮影の案内ページが設けられています。調圧水槽の真上は春日部市が管理する多目的広場で、天井部分はサッカーグラウンドになっています。177m×78mという数字がピンと来なくても、地上でサッカー場の広さを見れば、足元の空間の大きさが想像しやすいはずです。

見学の人気も高く、2018年度から春日部市などでつくる協議会のもとで有料の一般公開が始まりました。2024年度には約6万8千人が訪れています。

見学するには?コース・料金・予約のコツは?

見学会は「首都圏外郭放水路 見学会」公式サイトからの完全予約制で、当日参加やキャンセル待ちはできません。料金は2026年5月15日入場分から改定されています。2026年10月12日時点の公式サイトの主なコースは次のとおりです(料金は1人分)。

コース所要時間料金定員
地下神殿コース約55分1,200円55名
流域治水ライトアップコース約55分1,500円55名
立坑体験コース約110分3,500円20名
インペラ探検コース約110分4,500円20名
ポンプ制覇コース約110分5,500円20名
マインクラフト防災学習コース約120分4,000円プレイヤー10組
アドベンチャー体験コース(11月〜5月)約240分15,000円16名(最少催行5名)

初めてなら地下神殿コースで十分に雰囲気を味わえます。予約のコツと注意点をまとめます。

  • 個人(1〜19名)は参加希望日の1か月前の同日0時に受付開始。人気の日は早めに埋まるので、日付が決まったら当日0時を狙うのが確実です。支払いはクレジットカードのみで、2日前から取消料が100%かかります(取消料の規定は予約時に公式サイトで最新のものを確認してください)。
  • 小学校入学前の子どもは、大人と一緒でも参加できません。中学生以下は大人の同伴が必要です。水に入るインペラ・ポンプ制覇・アドベンチャーの各コースは身長130cm以上が条件です。
  • 階段は約100段あり、エレベーターはありません。床が濡れて滑りやすいので、細いヒールやビーチサンダル、かかとのない靴は不可です。
  • 地下は真夏でも約20度、真冬は約10度。夏でも羽織るものが一枚あると安心です。
  • 大雨で施設が稼働すると、コースが変更になります。水が入ったあとは約1週間、調圧水槽などに入れません。台風のあとは公式サイトのお知らせを確認してください。

受付は「龍Q館」(春日部市上金崎720、庄和排水機場内)の1階で、集合場所はコースによって1階ロビーか2階になります。見学開始の30分前から受付が始まり、10分前までに済ませる必要があります。龍Q館の展示室は入館無料で、予約なしでも見られます(9時30分〜16時30分、月曜と年末年始は休館。月曜は見学会の参加者のみ入館可)。

最寄り駅は東武アーバンパークラインの南桜井駅で、北口から徒歩25〜30分(約2.3km)。タクシーで約7分ですが、南桜井駅にはタクシーが常駐していないと案内されています。車の場合は自家用車用の無料駐車場が約50台分あります。2026年10月19日・20日は施設点検日で見学会はお休みです。春日部の工場見学や屋内スポットと組み合わせる場合は、埼玉の工場見学|無料・予約不要で子どもと行ける場所や埼玉の雨の日に子どもと遊べる屋内施設17選も参考になります。

地下神殿の美しさは、この土地が水と闘ってきた歴史の裏返しでもあります。柱の間に立ったら、ここが満水になる日のことを少し想像してみると、見え方が変わるはずです。

参考資料

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