3行でわかる秩父とアニメの聖地
- 2011年4月放送のテレビアニメ「あの花」で秩父の街なかが舞台になり、ファンの聖地巡礼が始まりました
- 秩父出身の脚本家・岡田麿里さんらの「超平和バスターズ」が、2015年・2019年の映画でも秩父を描き「秩父三部作」と呼ばれます
- 市・鉄道・商店街・お祭りがそろってファンを迎え、龍勢祭には毎年のように「あの花龍勢」が上がってきました
秩父が「アニメの聖地」になったのは、2011年のテレビアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(通称「あの花」)が秩父の街なかを丁寧に描き、それを市や鉄道会社、商店街が放送前から態勢を整え、ファンが何度も「帰ってくる」場所づくりで受け止めたからです。作品の力と、迎える側の段取りの両方がそろっていた――ここが、秩父が15年たっても聖地であり続けている一番の理由です。
この記事では、舞台のモデルになった場所、その後に続いた「秩父三部作」、龍勢祭とのコラボ、観光客数や経済効果として示された数字、そして地元の受け入れ方までを、自治体や報道で確認できた範囲でたどります。

なぜ秩父が「あの花」の舞台になった?
「あの花」は、2011年4月から放送されたオリジナルのテレビアニメです。幼なじみ6人の再会を描く青春群像劇で、制作したのは監督の長井龍雪さん、脚本の岡田麿里さん、キャラクターデザインの田中将賀さんの3人による「超平和バスターズ」。このうち岡田さんが秩父の出身です。
実は秩父では、放送の前年から下地ができていました。2010年7月、秩父市観光課が中心となって「秩父アニメツーリズム実行委員会」を組織し、同年8月には「銀河鉄道999 in 秩父」を開催しています。日本印刷技術協会(JAGAT)のレポートによると、実行委員会は秩父市や西武鉄道、秩父鉄道など10団体で構成されていました。
当時の秩父は県内有数の観光地でしたが、日刊工業新聞の記事によると、観光客は40代以降が中心で、若者が少ないことが課題でした。JAGATのレポートでは、アニメの制作会社から西武鉄道に協力の依頼があったことが、秩父での取り組みのきっかけになったと紹介されています。若い世代を呼びたい町と、舞台を大切にしたい制作側。両者の思惑が重なったわけです。
「あの花」の聖地はどこにある?
聖地は、西武秩父駅から秩父鉄道の秩父駅を経て、旧秩父橋のあたりまでの街なかに集まっています。埼玉県秩父地域振興センターが公開している「あの花・ここさけ」聖地巡礼コースでは、次のような場所が「あの花」ゆかりのスポットとして挙げられています。
- 西武秩父駅:出発点。駅前の秩父観光情報館で聖地巡礼マップが手に入ります
- 番場通り:秩父神社の表参道にあたる、昭和の雰囲気が残る通り
- 秩父神社:徳川家康が再建した、秩父地方の総社
- 札所17番 定林寺:秩父札所のひとつ。納経所には「あの花」の絵馬が並びます
- 旧秩父橋:作品に何度も登場する、聖地を代表する橋
- 龍勢会館・秩父地場産センター:龍勢祭や秩父の名産を知ることができる施設
定林寺を含む秩父札所34か所は、室町時代に起源があるとされる観音巡礼の地です。昔から巡礼者を迎えてきた土地柄が、ファンを受け入れる素地になったとも考えられます。

「秩父三部作」とは? あの花のあとに続いた2作品
「あの花」のあとも、超平和バスターズは秩父を舞台に作品を発表しました。2015年9月19日公開の劇場アニメ「心が叫びたがってるんだ。」(ここさけ)と、2019年10月11日公開の「空の青さを知る人よ」(空青)です。
埼玉県秩父地域振興センターの記事では、この3作品が岡田さんによるオリジナルストーリーで「秩父三部作」と呼ばれていること、「空青」の公開によって秩父が三部作すべての聖地になったことが紹介されています。映画.comの報道によると、三部作という構想は「ここさけ」が終わったあとに持ち上がったもので、「空青」では制作前から秩父を舞台にすることが決まっていたそうです。
聖地も広がりました。「ここさけ」では札所10番の大慈寺が聖地となり、埼玉県によると秩父市・横瀬町が舞台とされています。「空青」では、浦山ダムや秩父ミューズパークの「旅立ちの丘」からの景色が使われました。巡礼の範囲は街なかから山あいまで伸びています。
一般社団法人アニメツーリズム協会の「訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2020年版)」では、秩父市が「あの花」「ここさけ」の聖地として、横瀬町が「ここさけ」の聖地として選ばれています。
なぜ龍勢祭に「あの花」のロケットが上がる?
毎年10月に椋神社の例大祭として行われる龍勢祭は、手作りのロケットを打ち上げて奉納するお祭りです。ここに「あの花」の名を冠した龍勢が加わったのは、放送された2011年のこと。秩父市観光課と北海道大学の研究者がまとめた年表では、2011年10月9日の龍勢祭で、龍名「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の龍勢が打ち上げられ、この年の人出は過去最高の11万1,300人だったと記録されています。
この龍勢は、作品のファンの奉納金によって作られているのが特徴です。日刊工業新聞の記事は、ファンの奉納金で作る「あの花龍勢」として紹介しており、年表によると2012年の奉納者は275名にのぼりました。2017年の埼玉県知事記者会見の資料にも、龍勢祭で「あの花龍勢」が奉納されると記されています。アニメのファンが、地元の神社のお祭りに「奉納者」として参加する。聖地巡礼が観光の枠を超えた関係になっていることが、ここによく表れています。
ファンは「お客さん」ではなく「参加者」:秩父の取り組みの特徴は、ファンを見物客として迎えるだけでなく、龍勢の奉納や聖地の清掃イベントのように、町の行事の担い手として招き入れた点にあります。市の担当者が「ファンがいなければ聖地は成り立たない」と語ったことが報じられています。
聖地巡礼で観光客はどれだけ増えた?
放送直後の効果については、JAGATのレポートが、2011年4月から10月までに聖地巡礼やイベントで秩父を訪れたファンを約8万人、経済効果を約3.2億円と推計したと伝えています。2011年9月に秩父で開かれた「ANOHANA FES.」には、約1万人が集まりました(市の年表では入場約5,000人、人出約1万人)。
その後の長い目で見た数字は、日刊工業新聞(2023年8月)の取材で秩父市観光課長が示したものです。アニメ放送前に約390万人だった観光客数は、2015年に約508万人まで増えました。コロナ禍の2020年には約382万人に落ち込みましたが、2023年は500万人に戻ると予想されていました。増減にはアニメ以外の要因も重なるため、すべてを作品の効果とは言えませんが、放送後に多くの若者が訪れるようになったと同記事は伝えています。

町はファンをどう受け入れた?
秩父の受け入れは、放送が始まってすぐに動き出しました。2011年5月からは商店街の承諾を得て街灯に「あの花」のフラッグを掲げ、市の年表ではその数は550枚。聖地巡礼マップは2011年夏に4万部を配り、同年11月に6万部を増刷しています。グッズ化の窓口は実行委員会メンバーの商工会議所が担い、申請や版権料の支払いを代行する仕組みも整えられました。
鉄道会社も一体でした。西武鉄道は2011年4月から駅ポスターや中吊り広告、ラッピングトレインなどのコラボを重ね、2013年7月には劇場版のラッピング電車を西武池袋線で走らせています。秩父鉄道も2011年12月に「ANOHANA X’mas Train」を運行し、2021年4月3日からは三部作をまとめてラッピングした「超平和バスターズトレイン」を走らせました。
埼玉県も、2013年10月に大宮ソニックシティで「アニ玉祭」を初めて開きました。2017年には第5回を数え、県内の鉄道6社と連携したラリーに「あの花」「ここさけ」も加わっています。
近年は、SNSでのファンとの交流、作中人物の誕生日会、聖地の清掃イベント「聖地ちちぶお掃除大作戦!」、市民や商店街とファンが交流できるスペースの設置などが続けられてきました。日刊工業新聞によると、秩父市の担当者は、久喜市鷲宮(「らき☆すた」の聖地)の事例から学んだといいます。定林寺の「あの花」絵馬や大慈寺の「ここさけ」おみくじのように、作品を町の文化の一部として受け止めているのも秩父らしいところです。
- 2010年秩父アニメツーリズム実行委員会が発足、「銀河鉄道999 in 秩父」開催
- 2011年4月テレビアニメ「あの花」放送開始。西武鉄道のコラボが始まる
- 2011年10月龍勢祭で「あの花」の龍勢を打ち上げ。人出は過去最高の11万1,300人
- 2013年劇場版公開。埼玉県が大宮で初の「アニ玉祭」を開催
- 2015年9月映画「心が叫びたがってるんだ。」公開
- 2019年10月映画「空の青さを知る人よ」公開。秩父三部作がそろう
- 2021年秩父鉄道「超平和バスターズトレイン」運行、「あの花」10周年イベントを秩父で企画
15年たった今、秩父の聖地はどうなっている?
2026年は、「あの花」の放送からちょうど15年にあたります。2021年8月28日には、10周年の記念イベントが秩父宮記念市民会館と秩父市役所前駐車場で予定されていました。
埼玉県秩父地域振興センターは現在も「あの花・ここさけ」の聖地巡礼コースや三部作の聖地紹介をウェブで公開しており、西武秩父駅を起点に、路線バスや徒歩で巡る楽しみ方が案内されています。なお、2026年2月にはアニメツーリズム協会が「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」の2026年版(100作品)を発表しましたが、秩父の作品が選ばれているかは、今回確認できた報道の範囲ではわかりませんでした。
若い観光客の少なさに悩んでいた秩父は、15年のあいだに、若い世代が何度も「帰ってくる」町になりました。巡礼する人の目線で街なかを歩くと、見慣れた橋や寺の境内も少し違って見えてきます。
参考資料
- KOCO“ココ”ちちぶ No.5 中島学さん(埼玉県 秩父地域振興センター)
- アニメ「あの花・ここさけ」聖地巡礼コース(その1)(埼玉県 秩父地域振興センター)
- 実際にコースを巡ってみました(埼玉県 秩父地域振興センター)
- 7月~10月はアニメだ!埼玉(埼玉県知事記者会見資料)
- 秩父市×『あの花』タイアップの経緯とその後の展開年表(秩父市観光課・北海道大学観光学高等研究センター、2013年)
- 「らき☆すた」「あの花」「ヤマノススメ」―聖地巡礼で地域活性化する埼玉県内の戦略(日刊工業新聞 ニュースイッチ、2023年8月)
- アニメの力で地域に若者を呼び込む ~観光都市・秩父の挑戦~(日本印刷技術協会)
- 秩父を席巻した『あの花』の威力(東洋経済オンライン、2013年8月)
- 心が叫びたがってるんだ。(2015)作品情報(映画.com)
- 「空の青さを知る人よ」公開記念し超平和バスターズ「秩父三部作」メインキャストが集結(映画.com、2019年11月)
- 訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2020年版)が発表(ファミ通.com、2019年10月)
- 「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」の2026年版を発表(週刊アスキー、2026年2月)
- 秩父鉄道、「超平和バスターズトレイン」を4月3日から運行(トラベル Watch、2021年3月)
- アニメ・マンガまつり in 埼玉(文化庁メディア芸術祭)
- 「あの花」10周年記念イベントの詳細発表(アニメ!アニメ!、2021年7月)
- 秩父札所巡り(テレビ東京「出没!アド街ック天国」2019年11月16日)

