全国の渡辺さんの始まりである渡辺さんが作ったお寺【埼玉ブルース第9回】

埼玉ブルース

いつもこのコーナーをご覧くださっている皆さん、こんにちは。

そして、埼玉県在住のすべての渡辺さんもこんにちは!

誰が言ったか知らないが、訪ねてみれば確かに感じる魅力のご当地をさすらう「埼玉ブルース」。

今回は全国の渡辺さんのはじまりである渡辺綱さんが作ったという宝持寺へお邪魔して来ました。

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この宝持寺さん、全国の渡辺さんがこぞって集まる知る人ぞ知る聖地なのですが――

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それだけに門構えから大変にご立派で、なんだか恐縮することしきりです。

果たして、渡辺姓を名乗らぬ筆者のような何処ぞの馬の骨が跨いでもいい敷居なんだろうか。。。

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「あのう……渡辺と申さない者ですが、ちょっと取材などをよろしいでしょうか?」

「はい、お待ちしてましたよ。こちらへどうぞ」

ご理解あるご住職の手引きで、早速お寺のなかへご案内頂くことに。

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ご本堂はおよそ十年前に再建なさったということで、我々素人がイメージする古風な佇まいとは一線を画す荘厳な美しさにあふれている。

「よく外国の方もお見えになりますが、どうも宗教観の違いからですかね。どうやらこの景観を芸術として捉えていらっしゃる方が多いようです」とはご住職談。なるほど、そのお言葉も納得のまさに壮観です。

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すっかり見惚れるばかりだったものの、渡辺綱さんのご位牌をお持ちくださったご住職の粋な計らいで危うく本来の使命を思い出す。

これは渡辺十兵衛尉高さんとおっしゃる武将が渡辺姓のはじまりである先祖を偲んで、今から三百余年前の江戸時代に作らせたもので、

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現代にまで剣豪としてその名を馳せる綱さんにちなんで、この大太刀とご一緒に奉納されたのだそう。

この刃自体は斬れないように出来ているそうですが、実際に抜いて見せて頂くと、度肝を抜かれ、腰まで抜かされる文字通りのド迫力。

その長さはなんと7.3尺!

これは国際単位に直すと、実に3m弱にもなるということなので、ちょっとしたお子さん二人分の長さの打ち太刀を思い浮かべてくだされば、この時の筆者の心境がお分かり頂けるだろうか。

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「そう言えば、渡辺綱さんって一体どんな方だったんでしょうか?」

そんな素朴な疑問をご住職にぶつけたところ、このレリーフを見せてくださいました。

もともとはこの鴻巣の地で生まれながら、現在の大阪府である摂津国に渡って、その地名を取って渡辺を名乗ったことがそもそものはじまりだとのこと。

それから、この地に戻って祖父と父の菩提を弔うために建立したのがこのお寺で、今日までに三十八代ものご住職を数え、なんと千年の歴史を誇る由緒正しきまさに聖地です。

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ちょっと分かりにくいかも知れませんが、このレリーフ自体も2m強とかなり大きく、さらに凹凸が伝える臨場感には思わず手に汗握ります。

渡辺綱はあの鉞(まさかり)担いだ金太郎さんと同じく源頼光の四天王の筆頭としてその名を馳せた人物らしく、その豪傑振りが窺えます。これは一条戻り橋に現れた鬼に襲われて、その腕を切り落とそうと(!)しているところ。

この出来事は鬼にとっても大変なトラウマとなっているようで、そのため現在でも渡辺さんの前には怖くて姿を現せないとの言い伝えも。もしこれを読んでいらっしゃる渡辺さんのなかに鬼に襲われたことのある方がいらしたら、是非ともご一報ください(どんなに怖かろうと鬼嫁は除外とさせて頂きますので、悪しからず)。

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そして、こちらが渡辺さんの発祥である渡辺綱を讃えて建てられた顕彰碑!

こんな立派な墓石を建立なさるのは、どんな奇特な方かと思いきや……

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なんと全国渡辺(部)会とな!? この世に謎めいた集団は数多あれど、まさか渡辺さんのみで構成される一大組織があろうとは。

ちなみに、はじめて渡辺綱さんがその姓を名乗りはじめてから那由他の時を超えて、現在では全国ランキングにおいて堂々の5位を記録するという繁栄振り。これは、驚くなかれ日本人の100人に一人が渡辺さんであるという計算になります。

た、確かに、これまでクラスに一人は渡辺さんって必ず居たかも!

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しかしながら、渡辺綱さん、先程の鬼や酒呑童子を蹴散らした英雄振りも然ることながら、今にもその名前が伝わる数々の天皇と相関の交わる結構なセレブっぷり。もし現代に生きていたら婚活市場でもその腕を揮ってくださったに違いないのが悔やまれます。

その祖先のなかには光源氏のモデルにもなった源融がいることから、渡辺綱さんご自身の美男子説にも頷けること仕切りです。

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こちらが渡辺家の家紋で、一文字の上に三ツ星が乗っていることから”渡辺星”と呼ばれているとのこと。

これをそっくりそのままひっくり返せば、今年の大河ドラマでもお馴染みの毛利家のそれになるというトリビアも。

「さすがご住職、お詳しいですね!」

「我が家も渡辺綱と同じく、清和源氏に名を連ねる一族の末裔ですからね」

それを広げると再び巻き返すのが大変とおっしゃる8mにも及ぶ家系図を写真で見せて頂いたところ、確かに清和天皇をはじめ、これまで社会の教科書で習った錚々たる顔触れがずらり。実は所縁をたどれば源氏にも通じるとのことで、ご住職ご自身も渡辺綱とご親戚の関係にあられるのだとか!

「これだけご先祖様方のなかに有名人がいらしたら、さぞや毎年の大河ドラマをご覧になるのは楽しいのでは?」とお伺いしたところ、力強く頷いていらしたのが大変に印象的でした。

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さて、まだ梅雨が明けて間もない昨今ではありますが、これからお盆を迎えるに当たって、なにかと間違えがちなお墓参りの心得について伺ってみました。

しかしながら、そのルールはひとつ;「ご先祖様を敬う気持ちを決して忘れないこと」。

一見(一聞?)するだに簡単なようですが、いきなり墓石に水をぶっかけるのも、たわしでごしごし擦ったりするのもすべてNG。えっ、今までなんとなくやっちゃってたかも……。

「その墓石が生前のご先祖様方のお顔だと思って、特に優しく扱って差し上げること。

それが引いては自分に返り、根付いた伝統は子々孫々にまで連綿と伝わって行くんですよ」

最近ではお墓参りをしない若者が増えはじめていたり、そもそもお墓自体を望まない人も増えているらしい。

でも、やっぱり自分のルーツを確認して、しっかりと前に向かって歩いて行くためにも、ご先祖様を敬う気持ちを忘れないようにしよう。少なくとも年に一回、このお盆の時くらいは。

【今回取材させて頂いた宝持寺様】
埼玉県鴻巣市箕田2034

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